PURPOSE STORY

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すべての人が安心して働き続けるために。

株式会社エーピーシーズ 代表取締役社長 マイナビグループ 人材派遣・BPOセグメント長 藤本 勝典(ふじもと・かつのり)

「パーパス」ってなんだろう?

「ミッション」や「経営理念」と似ているけど、ちょっと違う。
企業と社会のつながりが欠かせない今、
ビジネスシーンで“存在意義”と訳されるこの言葉が、
多くの企業に求められている。

《一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。》

これは、マイナビが掲げたパーパスとともに歩く、
社員一人ひとりの物語。





藤本勝典は、アルバイト・パート・派遣といった非正規雇用者に関わる事業を生業にして、40年弱。現在はマイナビグループの人材派遣・BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)セグメント長、そしてグループ傘下であり、アルバイト・パート・派遣人材向けのソリューションサービスを提供する株式会社エーピーシーズ代表取締役社長を務める。

非正規雇用という言葉が生まれる前からこの業界に携わってきた藤本が、マイナビグループで実現を目指す「業界全体の変革」とは。

※企業の業務プロセスを外部に委託すること

この人たちの未来に責任を持てるのか。

「アルバイト・パート・派遣業界の“雇う側”と“雇われる側”の関係性を対等にし、いくつになっても働ける環境をつくる」——それが、どこに身をおこうともブレない、藤本の強い意志だ。

その真意を知るには、彼がアルバイト・パート・派遣業界に飛びこんだときのことから話を始めなければならない。

「バブル前後で、業界の状況は大きく変化しました」

藤本は、キャリアの初期をそう振り返る。

バブル崩壊前の1985年、藤本のキャリアはスタートする。アルバイト向けの週刊求人情報誌の営業として、新宿・歌舞伎町と上野を朝から晩まで駆け巡る日々。バブルが弾ける直前の当時、求人広告は注文の嵐だった。

世間から見たアルバイトへのまなざしも、令和の今とは異なっていた。彼・彼女たちは、いわゆる“夢追い人”。歌手になる、俳優になるという夢を叶える手段として、一時的に就く仕事がアルバイトであり、「フリーター」と呼ばれた。

「80年代のフリーターは、お金持ちではないにせよ、アルバイトで最低限の生活費は稼げていました。そして、現在の自分のことを、憧れの仕事に就くための“仮の姿”だと認識していたはずです」

しかしここで、藤本の表情が曇る。

「バブルが崩壊したあとは状況が一変します。生きていくだけで精一杯、夢物語を続ける余裕などありません。そうなると、アルバイトは暮らしていくために必要不可欠なものとなり、『フリーター』という言葉も影がある響きを持つようになってしまいました」

時代の変化とともに、フリーターへの風当たりは厳しくなる。藤本は次第に責任を強く感じるようになったと言う。

「私は繁華街で求人広告の営業をしながら、街ゆく若者を見て『私はこの人たちの人生を左右してるんだな』と思っていました。いや、こう言った方がいいかもしれない。『私はこの人たちの未来に対して責任を持てるのか』と。バブル崩壊という現実が襲ってきて、私自身、後ろめたさのようなものを抱いていきました」

未来が見えない状況を変えたい。

「非正規雇用の人たちは数年先の未来すら見えないなかで働いていて、理不尽な思いをする人も多くいます。“雇う側”と“雇われる側”の立場が均衡ではない。このことが問題の一つであると考えてきました」

藤本は、そんな彼・彼女らの状況を少しでも良くすることに心血を注いできた。求人広告では、求職者が「広告と違う」と感じさせないために、自身の目標達成よりも原稿づくりに力を注ぐことを心がけていたと言う。

「職場の年齢層や、書き入れどきで忙しいタイミングなど、働くうえで実際の業務内容以外に重要な点は数多くありますよね。このような、求職者が実際に働き始めてから気になるであろうことがらを、現場を回り自分の目や耳で集め、制作担当にゆだねることなく、自分の言葉で原稿を作る努力もしていました。応募の数ではなく、採用される人の定着のことをいつも最大限考えてきました」

働き始めてからの課題を解決する。

藤本はそのあともアルバイト・パート・派遣業界で、さまざまな仕事をしてきた。

アルバイト求人情報誌のWebサイト化、短期・単発求人サイトの立ち上げ、あたらしい人材派遣会社の立ち上げなど、紙からデジタルへ移行していく業界の最前線で編集長や責任者として奔走し、取締役や事業責任者も務めた。

そうしてキャリアを重ねていくなかで、業界内に根ざしていたある課題の解決を志す。それは、すでに数多く存在する「求職者が仕事を見つけるためのマッチングサービス」とは一線を画す、「働き始めたあとに発生する課題を解決するソリューション」を世のなかに送り出すことだった。

「私は長らく企業と求職者のマッチング事業に取り組んできました。しかしそれだけだと、根本的な課題の解決には至らないんです。企業と働く人の関係性や就職後の働き方といった、マッチングしてからのあり方に目を向ける必要があると感じていました」

そんなときに出会った会社が現在、藤本が代表を務めるエーピーシーズの前身、パルマだったと言う。

「パルマは給与の日払いサービスを提供していました。つまり、マッチングのあとのこと、働き始めてからの課題を解決しようとしている会社だったんです」

これはまさに自分が取り組みたいことだと、藤本はパルマの事業内容に可能性を感じ、2014年に出資、代表取締役社長になった。

「エーピーシーズと社名を変更してからも、アルバイト・パート・派遣で働く人々を支えるという社是は変わりません。環境や待遇の面で、彼・彼女らが働いている最中に発生するトラブルを解消し、企業にとっては人材が“定着”するソリューションを提供しています」

具体的なサービスは、給与の前払いを実現する福利厚生制度「速払いサービス」や、従業員の情報伝達などをサポートするスマホアプリ「apseedsポータル」などがある。

apseeds

エーピーシーズは2017年11月にマイナビグループの一員となる。また、藤本自身もグループの一員となり、今はグループのセグメント長を任されることになった。

キャリアの階段を示したい。

業界の歴史や変遷を自身の糧とし、戒めとしながら、藤本は“雇う側”と“雇われる側”の間で生じる不均衡の改善に努めてきた。

一方で、非正規雇用者の人数は、80年代半ばと比べると今や3倍以上。法改正や景気の変動、産業構造や人口構成の劇的な変化もあった。

「先に言いましたが、私は後ろめたさのようなものも感じながら仕事をしてきました。この世界には、理不尽な思いをしてきた人も多くいると思います。私はただ、非正規雇用で働いている人の未来を可能な限り確約したいんです」

冷静な口調で藤本は続ける。「例えば、『3年間ここで働いていけば、このようにステップアップできる。その結果、給料はこの程度上がり、このような未来を実現できる』といった、キャリアの階段を明示したい。非正規雇用であっても、ライフプランを立てられるようにしていきたいんです」

職人的な能力で、いくつになっても働ける環境を。

深刻な労働力不足の問題が取り沙汰されている昨今の社会課題に対し、藤本は「いくつになっても働ける環境をつくりたい」という思いとともに、つぎのような持論を展開する。

「労働力不足を解消するには、働く人の“何”に対して給与が支払われるか、その発想を転換しなければいけません。それは、これまで常とされていた働いた“時間”ではなく、“成果”や“能力”にフォーカスするということです」

藤本はさらに続ける。

「今後、働く側には職人的な能力が求められます。とはいえ、各人のスキルを個人の努力だけで職人レベルにまで引き上げることは難しいでしょう。企業側も育成のアイデアを検討しなければいけませんし、働き手が数年後にどのような能力を身につけられるのかといった未来を示していく必要もあります。でなければ、人手不足で倒産してしまいますから」

非正規雇用において「未来が見える世界をつくる」には、働く人のスキルを底上げし、その能力によって生まれた成果物に付加価値をつける社会が必要となる。そうすることで、労働力不足解消や産業の発展につながるのだ。

業界内でさまざまな経験をし、課題の根深さを嫌というほど知る藤本は、非正規雇用の抜本的な意識改革を目指している。そして、目下の状況をこう語る。

「業界全体の変革に向け、今はまだ初期段階です。セグメント内でも目線合わせをしている最中ですが、これは裏を返せばこの先できることはたくさんある、ということ。重要な局面はこれからです」

非正規雇用の課題を目の当たりにしてきたそのまなざしは、すべての人々が安心して働き続けられる世界をしっかりととらえている。今後も藤本は、人材派遣・BPOセグメント、そしてマイナビグループを、さらには業界全体を、着実により良い姿へと変えていくはずだ。

株式会社エーピーシーズ 代表取締役社長 マイナビグループ 人材派遣・BPOセグメント長

藤本 勝典(ふじもと・かつのり)

1964年生まれ。アルバイト求人情報誌会社リクルートフロムエーに入社し、「フロム・エー」の編集長を歴任。そののち同社でアルバイト派遣事業などを立ち上げ、2004年にYahoo!社と、リクルート社のjointventure会社であったインディバル社を設立。みずから企画設計した求人サイト「ショットワークス」をリリースする。
2010年にはdip社に移籍、2014年に現・エーピーシーズの前身、パルマ社の株式を一部取得しながら代表権を譲り受ける。その後、エーピーシーズと社名を変更。2017年にマイナビグループ会社化。
現在は長年の業界経験により、マイナビグループの人材派遣・BPOセグメント長を務める。

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