すべての社員の可能性を引き出す。
「パーパス」ってなんだろう?
「ミッション」や「経営理念」と似ているけど、ちょっと違う。
企業と社会のつながりが欠かせない今、
ビジネスシーンで“存在意義”と訳されるこの言葉が、
多くの企業に求められている。
《一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。》
これは、マイナビが掲げたパーパスとともに歩く、
社員一人ひとりの物語。
新事業が継続的に生まれるような、起業家マインドをマイナビに醸成する。
当たり前の日常が崩れ、あらゆる状況が一変した2020年3月。このままでは生き残れないかもしれない——。マイナビ 新領域開発室 室長、事業推進統括事業部 事業部長の林俊夫は、強烈な危機感に襲われた当時をそう振り返る。
通常であれば就職活動がスタートする時期に、あらゆる催しがストップしてしまった。そこで痛感したのは、新事業をつくり続ける必要性だった。変わらなければ生き残る道はない。そう考えた林は、2022年7月に新領域の開発を主目的とした新領域開発室を立ち上げ、2023年1月にはマイナビ初の新規事業提案制度「MOVE」を発表することになる。
事業運営により近い仕事を目指して。
創業50周年を迎え、つぎの50年、100年、さらにその先へ。そんなタイミングで、林が率いる新領域開発室が中心となり、マイナビ初となる一大プロジェクト、新規事業提案制度「MOVE」は始まった。
MOVEには2023年8月時点で二次審査が終了し、選抜された5組が事業の検証期間に突入したところ。同年の年末に最終審査会を実施し、その場でグランプリ受賞者が発表される。
MOVEを率いる入社18年目の林が2005年に新卒入社して配属されたのは、就職情報サイトの求人広告営業を担う営業職。飛び込み営業による企業訪問や新規アポイント獲得の電話など、泥くさい業務を繰り返した。
「事業運営により近い位置で仕事をすることが僕にとっての目標でした」
そのイメージ通り、林は事業企画部門、営業推進部門を経て、2019年10月に発足した事業推進統括事業部の事業部長に任命された。ここでは就職と転職、両方の事業企画を担う。2022年7月にはみずからが先導して新領域開発室を立ち上げ、室長に就任した。その名が示すとおり、新事業の開発が目的だ。
昨日までの延長ではいけない。
事業推進の責任者として、「就職」と「転職」という社業のいわば根幹を支えようとしたその矢先に、コロナ禍は始まった。
就職活動が始まる3月のタイミングで感染者が増え、予定していた合同説明会はすべて中止に。
「事業の基盤は、予期せぬ出来事によりいとも簡単に揺らぐのだなと、リアルに実感しました。これまでにないほどの無力感を感じましたが、今何をすべきかを見つめ直すなかで、『あたらしい事業をつくり続けていくべきだ』と自分なりの結論を出しました」
昨日までの延長を続けるだけではいけない。そんな危機感から、2021年4月、林は事業推進統括事業部内に、新領域の開発を担う「新領域開発部」を立ち上げた。これこそ、のちの新領域開発室の前身となる組織だ。
「まずは、自分の部署内に新領域を生む機能をつくって小さく始めようと。事例を積み重ねる中で、これまで以上に継続的に新事業が創出される風土づくりにつながればいいな、という願望も持ちながらの、最初の一歩でした」
そんな林の想いが、現実になるまでに多くの時間はかからなかった。2021年12月に経営体制が刷新されたタイミングで、新規事業の開発に注力するという方針が打ち出されていく。そうした流れのなか、いよいよ2022年7月、独立した組織として新領域開発室を立ち上げることになった。奇しくもそれは、マイナビがこの先の50年、100年を見定め、パーパスを策定するタイミングと重なった。
「創業50周年を迎えて策定されたパーパスは、『マイナビは変わり続けるべき』という僕の考えともバチっと一致していました。僕もパーパス策定プロジェクトには参加していたのですが、自分がやるべきだと思っていたことが公になったような感覚でしたね」
応募者のハードルを極限まで下げる。
現在20名が所属する新領域開発室。部署の立ち上げから間もない2022年8月には、組織とアルムナイ(退職者やOB・OG)の関係づくりを支援するコミュニティサービス「YELLoop(エーループ)」の提供をスタート。林はその目的をこう語る。
「みずから新事業を立ち上げることによって、『僕らがやりたいのはこういうことです』と、わかりやすく示したかったんです。同時に、新サービスを運営するノウハウを溜めて開発に役立てることができるだろうと」
そして、2023年1月に新規事業提案制度「MOVE」を開始。同プロジェクトは「新事業の開発」と「社員の育成」の2つを目的にしている。
「マイナビでは以前から新事業開発自体は行ってきましたが、MOVEで実現したいのは、現場の社員が主導するボトムアップ型の新事業開発です。ボトムアップ型といっても、『審査してあげるから、あとは提案よろしく』というのは無理だろうと。各審査の合間に設けた検証期間を活用して、研修やメンターの伴走など各種支援を提供するといった、育成も含めたプロセスを組んでいます。また一次審査を通過したあとは、業務の20%をコンペ活動に当てられるよう、各部署の管理職に業務の調整をお願いしました」
まずは「チャレンジしてみよう」と思えるかが、本プロジェクトを成功に導く要となる。そのため、グループすべての正社員を対象にし、3名までのチーム単位での応募も可能にするなど応募のハードルを極限まで下げ、各部署への根回しも慎重に進めた。一つひとつの設計に、本プロジェクトにかける林の想いが透けて見える。
眠っていた「パッション」が見えてきた。
社員にエントリーを呼びかけるにあたっては、全社イベントの場で、社長の土屋の口からMOVEを実施する意義を伝えてもらった。約3ヶ月の応募期間を経て、集まった起案は250件を超えた。初年度でもあることからKPIを低く設定していたが、その予想はいい意味で裏切られた。当時のエピソードを語る林の口調にも、より一層の熱がこもる。
「若手から管理職まで、まんべんなくエントリーがあり、それもまた嬉しい驚きでした。みなさんのなかに、ふつふつと眠っていたパッションがあったのだろうと。会社の規模が大きくなるにつれて組織の縦割りが進み、閉塞感を抱く社員もいたのかもしれません。『一歩突き抜けたチャレンジができる』機会と打ち出したことで、悶々とした思いをぶつけるチャンスのようにとらえてもらえたのかなと。結果、組織を活性化させるカンフル剤的な機能として働いたように思います」
集まったアイディアにも「マイナビらしさが現れている」という。お客さまが抱えている課題に寄り添い、解決したい。そんなお客さま視線を重点に据えたアイディアが目立った。
まだグランプリが決まっていない現段階で、プロジェクトそのものを評価するのは難しい。だが、林が描いてきた青写真以上の取り組みになりそうな手応えはある。
「新規事業の立ち上げは、1,000のトライをして3つ当たればいいという世界。二次選考に残ったアイディアが成功するか見通すことは簡単ではありません。ただひとつ、すごいと思っているのは、参加者の熱量ですね。フィードバックすると、想像以上のスピードと量で改善案が返ってきます。それが全体のクオリティを高めているのではないでしょうか」
「変わり続けるマイナビ」を体現していく。
MOVEの最終審査会、及びグランプリ発表は、2023年の最終出社日に実施し、全国の拠点でオンライン配信することも予定している。全社の公式な取り組みであり、グランプリ受賞者は会社のトップに承認されていると示すためだ。初年度ならではの盛り上がりが期待されるが、「本当に大事なのは2年目以降」と林は表情を引き締める。
「打ち上げ花火で終わらず、いかに企業風土として根ざすことができるか。それを考えながらMOVEを設計しています。受賞者を大々的に称えたり、育成の側面を強化したりしているのも、そのひとつ。受賞者はもちろんのこと、それを逃しても一次・二次審査の通過者は、本プロセスでわかりやすく成長できるはず。新事業を成功させたことで大きくキャリアアップするような人が出てくれば、『携わっておいたほうが良さそうだ』という意識が徐々に根付いていくと思います」
現在、グループ全社で13,000人以上の従業員を抱えるマイナビ。全社員のアセットを統合してシナジーを生み出すことを最終的なゴールとしながらも、新事業開発に求められるのは「個のパッション」だと林は主張する。
「個のパッションを創発するひとつのきっかけとして、MOVEをうまく活用したい。組織をより強くするには個の可能性を花開かせるべきであり、そのためにはその原動力となるパッションを引き出す必要があります。加えて、社員一人ひとりが、より幅広いサービスに携わる経験ができればなおよいですね」
社員一人ひとりの可能性を発掘するMOVEは、まさにマイナビのパーパスに合致する取り組みといえる。それはまた、林自身のパーパスにも重なる。
「人生100年時代と言われる今、ユーザーの意識も要望も多様化しています。そんな方々の成長を支援し続けるには、提供するソリューションも変わっていかなければいけない。絶えずアップデートしているマイナビ。それを体現するのが僕のパーパスです」
18年間のキャリアを駆け抜けてきた林。自身が見据える未来とマイナビが目指す未来がリンクした今、あとは行動あるのみ。無我夢中で逆境にあらがううちに、社員、そして林自身の可能性と向き合うあらたな旅が始まっていた。
株式会社マイナビ 新領域開発室 室長/事業推進統括事業部 事業部長
林 俊夫(はやし・としお)
2005年新卒入社。就職情報事業本部の営業職に従事したのち、事業企画部門へ異動。
2019年10月に、就職情報メディアと転職情報メディア事業の事業企画部門の統合組織として事業推進統括事業部を立ち上げ。サービス開発、営業企画、人材開発、内部統制、総務など業務領域は多岐にわたる。
2022年7月に新領域開発室を立ち上げ、両部門の責任者を兼任。