PURPOSE STORY

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自分のゴルフを貫いて、まわりの人たちを喜ばせたい。

マイナビ所属プロゴルファー 吉本 ひかる(よしもと・ひかる)

「パーパス」ってなんだろう?

「ミッション」や「経営理念」と似ているけど、ちょっと違う。
企業と社会のつながりが欠かせない今、
ビジネスシーンで“存在意義”と訳されるこの言葉が、
多くの企業に求められている。

《一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。》

これは、マイナビが掲げたパーパスとともに歩く、
社員一人ひとりの物語。





2023年初春、プロ入り7年目にして初優勝を飾った、マイナビ所属のゴルファー・吉本ひかる。

身長152cm。ドライバーで飛距離を稼ぐタイプではないが、忠実なアプローチや正確なショットで確実に攻め入る。そんな“地道なプレー”が吉本の持ち味であり、そのプレースタイルは、自身のゴルフ人生ともどこか重なる。

プロデビューを果たしてからの日々を、吉本はどのように駆け抜けてきたのだろうか。「ゴルファーとして最大の夢は年間女王」と語る彼女の原動力は、どこにあるのだろうか。今回は特別編として、目標に向け歩みつづけるひとりのアスリートの物語をお届けする。

優勝が決まった瞬間は、夢のなかにいるようだった。

流れが変わったのは11番ホール。バーディを取った吉本ひかるは、一気に攻めの姿勢に転じた。

2023年3月に開催された、明治安田生命レディス ヨコハマタイヤゴルフトーナメント。吉本は単独首位からスタートしたものの、ライバル選手の猛追を受け、試合終盤まで激しいデッドヒートを繰り広げることになる。

「9番ホールで逆転され、追う側になったからこそ冷静になれたというか。10番から自分らしいプレーができるようになり、11番でバーディを取ってからは、一歩も引かない気持ちで攻め続けました」

ラストの18番ホール。9mのバーディパットを沈めた吉本から笑顔がこぼれる。ライバル選手のバーディパットがホールを外れ、優勝が決まった瞬間、吉本はどんな心境だったのだろうか。

「優勝したという実感は、すぐには湧いてこなかったんです。緊張がまだ続いていたせいか、夢のなかにいるようなふわっとした心地でいましたね。ギャラリーの歓声を聞いて『私、優勝したんだな』と少しずつ喜びがこみあげてきました」

「この人しかいない」直感が導いたコーチとの出会い。

吉本がゴルフを始めたのは9歳のとき。ゴルフ好きな両親から熱心な勧めがあったという。

「母の実家の近くにゴルフ場があって。母はそこでプロの大会を見てから、ゴルフが好きになったようです。私は当時まだ小学3年生だったので、まったく興味がありませんでした(笑)」

はじめは習い事のひとつに過ぎなかったゴルフ。しかし、水泳などほかの習い事があまり続かなかったのに対して、ゴルフだけは飽きずに続けられた。それは“上達の楽しさ”を感じられたからだ。

「最初の頃は、ボールにクラブを当てることすら難しかった。でも練習しているうちに、次第に当たる回数が増えて、感覚もつかめてきて。自分の成長を実感できた最初の体験でした」

両親やコーチからは、早くから「プロを目指したほうがいい」と言われていた。そんな言葉を受けて、吉本も自然と「将来はゴルファーになる」と口にするように。しかし、プロになりたいという強い意識が芽生え始めたのは、中学生のときだったという。

「中学3年生のとき、はじめてプロの大会に出場したんです。かっこいい選手たちを間近で見て、『将来、あんなふうになりたい』と憧れの気持ちが大きくなったんですよね。そう意識してから、練習の仕方も変わっていきました」

同じ頃、練習ラウンドで出会ったのが中島敏雅コーチだ。プロ選手を指導していた中島コーチとは、その後も何度か会う機会があり、高校2年生のとき本格的にコーチをお願いすることになる。

「中島コーチについていただけたら、レベルアップできるという確信があったんです。プロ選手への指導の仕方や声のかけ方を見ていて、直感で『この人しかいない』って。そして、その直感は当たっていました」

プロ選手がコーチを変更することは珍しくない。あたらしい風を取り入れ、より上を目指すためだ。しかし、吉本はジュニア時代から現在まで、中島コーチと二人三脚で戦ってきた。成績が落ち込んだ年もあったが、それでもコーチを変更しなかったのは「信頼があるから」だという。

「中島コーチに教わってから、アプローチとパットの打ち方が大きく変わりました。肩の動きや重心の乗せ方を少し修正するだけで、パッティングや飛距離が変わるのがゴルフのおもしろいところ。地道なトレーニングが、結果的にツアー初優勝に結びついたのだと思います」

平坦な道のりではなかったからこそ得られたもの。

ゴルフのプロテストは難易度が高く、合格率は3〜5%。「東京大学に合格するより狭き門」とも言われている。吉本は18歳でプロテストを受け、一発合格を果たした。

「大会とはまた違う緊張感があった一方で、自信もありました。緊張感を楽しみ、まわりに惑わされずにプレーできたことを覚えていますね」

吉本の世代は「黄金世代」と呼ばれるほど、女子ゴルファーの層が厚い。ジュニア時代から注目されてきた選手も多く、吉本もその一人だ。そんな同世代の存在は、モチベーションにどのように影響してきたのだろうか。

「同世代の選手たちは、良きライバルであり、良き友だちです。プロテストのときもみんなで励まし合っていました。私が今も諦めずに頑張れているのは、活躍する仲間がいるからです」

プロテストに合格したものの、その後のキャリアは順風満帆だったわけではない。2017年にプロ入りし、2023年にツアー初優勝。ここまでの期間を「長い道のりだった」と吉本は振り返る。

「プロ入り後、レギュラーツアーの出場資格がなかなか取れませんでしたが、2019年にはじめてシード権を獲得でき、その年は優勝争いにも加わることができました。さらに上を目指そうと張り切っていた2020年、コロナで大会の中止・延期が相次いだんです」

2021年には大会が再開したものの、長年愛用していたドライバーのヘッドが割れてしまい、あたらしいヘッドに替えたことから感覚がつかめなくなった。予選落ちが続き、「もうレギュラーツアーでは戦えないかもしれない」と思い詰めたこともあったという。

「どん底まで落ちたときに『とりあえず5年だけ死ぬ気で頑張ろう』と考えたんです。トレーニングをすべて見直し、ゴルフに没頭していきました」

あたらしいトレーニングの成果をじわじわ感じながら2022年シーズンを戦い抜き、2023年シーズンに突入。2戦目のヨコハマタイヤゴルフトーナメントで、ついに好機がやってきた。「もし2019年に勝てていたら、ここまでゴルフと向き合わなかったかもしない」と吉本はつぶやく。一度調子を落としたからこそ、自分のゴルフと向き合い、悲願の初優勝を果たすことができたのだ。

「プロ入り7年目の初優勝は、私にとって最良のタイミングでした。勝つべくして勝った、進むべくしてここまで進んできた、と感じています」

ゴルフは生き方が出るスポーツ。

技術以外でゴルファーに一番必要な力は、「しなやかなメンタル」だと吉本は答える。同世代の選手が活躍し、先に結果を出していくなかで、焦りを感じたこともあっただろう。そんなつらい時期を、どのように乗り越えてきたのだろうか。

「焦りや不安を感じないようにするなんて無理だと思うんです。それは感じて当然、と受け入れつつ、今できるベストをコツコツ積み上げていきました」

焦りや不安を受け入れるからこそ、調子が悪いときは、その思いをSNSなどで素直に吐き出すようにしている。

「気持ちが落ちたときに無理して強がったり、頑張ったりしても、何も得られません。落ちるときは、とことん落ちる。休んでリセットして、またつぎの日から頑張るのが私のやり方ですね」

吉本曰く、ゴルフは“生き方が出るスポーツ”だと言う。

「ゴルフには正解がありません。スイングも人それぞれ異なりますし、プレーの組み立て方にも性格が出ます。子どもの頃からの経験と結果が、今の私のプレーにつながっています」

吉本の強みは正確性とリカバリー力。体が小さく飛距離がそれほど稼げない分、カップインから逆算してプレーを組み立てていく。

「グリーンを外してもしっかりパー(規定打数)を取る、グリーンに乗せたらしっかりバーディーを取る。得意なアプローチパターやセカンドショットを計算に入れて、プレーを組み立てています」

そう答える表情には、自信がにじむ。優勝という結果はもちろん、不調に苦しんだ2021年をみずから乗り越えた経験が、吉本の力になっているのだろう。

自分のプレーがまわりの人の喜びに変わる。

「もしも、ゴルファーになっていなかったら?」

そんな質問をしてみたところ、吉本はしばらく悩んだあと「子どもの頃からゴルフ一筋でやってきたので、想像がつきません」と、困ったような表情を浮かべた。初優勝を果たしたものの、気持ちはすでにつぎの目標に向かっている。

「年4回あるメジャー大会で優勝したいという気持ちが強くなりました。これは、一度優勝したからこそ描けるようになった夢ですね」

ゴルファーとして最大の夢は、年間女王になること。その夢を果たすために、今できることはなんだろうか?

「私は小さい頃から、ステージを一歩一歩上っていくタイプなんです。すぐに結果を出そうとは思っていません。漠然と夢を見るのではなく、目の前のことを着実にこなして、次のステージに踏み出す力を蓄えていきたいと思っています」

ゴルフは個人競技だが、ラウンドに1人で立っている感覚はないという。それは、ジュニア時代から、家族やコーチなどまわりの人たちのサポートを受けてきたからだ。子どもの頃から一緒に練習をしてきた姉は、今、キャディとして選手生活を支えてくれている。

「大会では、ギャラリーの歓声も大きな力になります。みなさんテレビの中継で聞いたことがあるかもしれませんが、実際のコースで聞く歓声はもっとすごいですよ。いいプレーをすれば、それだけいい反応が返ってくる。そうやって、たくさんの人を感動の渦に巻き込めるのが、スポーツの力だと思っています」

自分のプレーによって、人に喜びを与えること。それこそが、吉本のパーパスだ。キャリアハイはまだまだこれから。ゴルファーとしての可能性と向き合い、吉本はこれからも進化を続けていくだろう。

マイナビ所属プロゴルファー

吉本 ひかる(よしもと・ひかる)

1999年生まれ、滋賀県出身。マイナビ所属。2017年プロテスト合格、2019年初のシード権を獲得。不調を乗り越え、2023年、ツアー2戦目の明治安田生命レディス ヨコハマタイヤゴルフトーナメントでツアー初優勝を果たす。その後もアクサレディスで3位タイに入るなど、好調をキープしている。

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