PURPOSE STORY

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「自分の視点」が築ける、良質なコンテンツを届けたい。

株式会社マイナビ出版 編集第2部 部長 島田 修ニ(しまだ・しゅうじ)

「パーパス」ってなんだろう?

「ミッション」や「経営理念」と似ているけど、ちょっと違う。
企業と社会のつながりが欠かせない今、
ビジネスシーンで“存在意義”と訳されるこの言葉が、
多くの企業に求められている。

《一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。》

これは、マイナビが掲げたパーパスとともに歩く、
社員一人ひとりの物語。





マイナビの出版部門として、幅広い分野の書籍や雑誌の発行、さらにゲームソフトの開発までも行う『マイナビ出版』。将棋、コンピュータ、就職・転職、料理などの専門性の高い世界を、広くわかりやすく伝えることに強みを持つ、総合パブリッシャーだ。

中でも「将棋」のスペシャリストであるのが、編集第2部の島田修二。数多くの将棋関連書籍やゲームソフトを担当し、業界を超えて旋風を巻き起こす藤井聡太八冠の指す将棋に対しても造詣の深い編集者だ。

現在は部長として、将棋以外の分野の書籍編集にも携わりながら、そこで得た知見を将棋分野に還元しているという島田。彼が考える“出版の可能性”とは。

強みは、マイナビが積み重ねてきた「信頼」。

古くからある出版社に求められる役割は今、変わりつつある。「断片的な情報、速報的な情報はネットが担当し、“そうではない情報”を出版社が提供すべき時代が到来しています」と、島田は切り出した。

「いつでも、どこでも、誰にでも、知りたいことを、知りたいかたちで。」をモットーに、幅広いジャンルを手がけるマイナビ出版。中でも、日本唯一のApple専門誌『Mac Fan』や『ノンデザイナーズ・デザインブック』や『プログラミングコンテストチャレンジブック』などのコンピュータ書、1937創刊の専門誌『将棋世界』に代表される将棋分野を中心に、ビギナーからプロフェッショナルまで、さまざまな層の読者に情報を届けている出版社だ。

※発行は日本将棋連盟。製作・発売は、2009年より株式会社毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ出版)が行っている

「マイナビ出版は、マイナビグループへの売上利益に貢献するのは当然のうえで、発信するコンテンツの『信頼性の高さ』には重きをおいています。『公序良俗に反していないか』などの判断基準が他社より高いため、提案できることの幅が狭いと考える編集者もいるかもしれませんが、その分企画力が磨かれる面もあります」

島田は、5歳から親しみ、現在は4段を保持する将棋分野への深い理解をもとに、スタンダードな将棋の戦術書はもちろん、将棋に関するチャレンジングな読みものも積極的に企画・制作してきた。そんな冒険心も発揮できる礎には「マイナビが将棋の世界で果たしてきた功績がある」と島田は言う。

「将棋は、初段レベルの実力が付くことでようやく楽しめるようになるという、ハードルの高いゲームです。しかし何十年も前は、将棋の戦法・戦術を知りたかったら、師匠からの口伝や名棋士が並べた棋譜を見て学べという世界でした。それをマイナビが一般の方にわかるよう体系化し、テキストとして世に流布させた功績があると、私たちは自負しています。羽生善治先生はよく『最近の将棋界は、強くなるための高速道路が敷かれたあとだ』とおっしゃっていました。少なくとも、初段になるには困らないまでの材料は、マイナビが提供してこれたのではないかと思うのです」

※株式会社毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)では、1983年から2016年にわたり「週刊将棋」(新聞)も発刊していた

将棋を指さない人に、いかにして面白さを伝えるか。

島田がマイナビ出版への入社に至るまでの過程は少々、いや、かなりユニークだ。将棋部に入った高校卒業後、1年浪人して私立大学に入学するもすぐに退学。それからフリーター生活を数年送り、一念発起して半年間受験勉強して晴れて合格した難関国立大学には、8年間在籍したものの卒業はしなかった。

「あまり褒められた人間ではありません(笑)。30歳まで学生でしたが、まわりを見てさすがに就職しようと考え、ずっと購読していた『週刊将棋』を発行するマイナビ出版だけに応募し採用されました。学生時代もフリーター時代も、将棋と本読みだけは熱心に続けていたため、その想いが伝わったのかもしれません」

大好きな将棋を仕事にした島田はその後、水を得た魚のようにさまざまな将棋書籍の編集に邁進していく。特に近年は、藤井聡太八冠の活躍で生まれた“観る将”(自分では将棋を指さず、プロ棋士などの対局の観戦を楽しむファン層)も意識した、将棋のあらたな楽しみ方を世の中に提案してきた。

「藤井先生の将棋は、私たちからみても本当に面白いんですよ。将棋を指す人間が感じる面白さを、いかに指さない方たちにも伝えられるかが、今の大きな課題です。例えば、藤井先生が得意とする“角換わり(かくがわり)”という戦法で、彼は39手目に『69玉(ろくきゅうぎょく)』を指します。対局全体のことはよく分からなくても、『39手目に藤井先生が何を指すかだけ観ていてください』と言われたら、一気に楽しそうに思えてきませんか?」

観る将のトップランナーとして知られる、お笑いコンビ・サバンナの高橋茂雄さんが将棋の魅力を語る書籍『すごすぎる将棋の世界』もまた、こうした想いから生まれた一冊だ。マイナビ出版が運営・島田が編集長を務める将棋のポータルサイト「将棋情報局」でも、『編集部島田が綴る今月の藤井聡太』と銘打ち、専門用語をなるべく使わず、かつ対局内容もしっかり楽しめる形で、藤井八冠の将棋を伝える連載記事をみずから執筆している。

「わかりやすさやエンタメ的な要素も大事にしつつ、“良質なコンテンツ”をつくることを心がけています。私にとって良質なコンテンツとは、読者にあたらしい視点を与えて、何か変容をもたらすもの。そのためには、ある程度まとまった情報であること。そして、繰り返しになりますが、信頼性の高い情報であることが不可欠だと思います」

「将棋本」からの学びを、より広い分野に生かす。

島田に、仕事における一番のやりがいを尋ねると「難しいことをわかりやすく伝えられたときですね」と微笑む。将棋書籍の編集を通して培われたそれらのノウハウは、電子書籍や将棋分野のゲームソフト開発にも生かされてきた。

「アウトプットによって関わる人数や工数に違いはあっても、やることの本質は書籍編集と変わらないことを知りました。また、長年将棋に関わる中で人間的な学びも多くありましたね。まさに藤井先生もそうですが、年齢がいくつであっても『道』を極めている人を素直に尊敬し、見習う気持ちが身についたと感じます」

その姿勢は、部長に就任して以降、将棋以外の幅広いテーマで書籍編集をするようになってからも発揮される。「人柄にも惹かれました」と言う自律神経専門の整体師にして人気YouTuber・前田祐樹さんと作った書籍『1分でできる! 自律神経を整えるセルフケア事典』は、イラストや図版も多く取り入れ読みやすさにもこだわり、いきなりのヒット作となった。

「幅広いテーマに関わらせていただき、編集面でのあらたな気づきや発見も多く得ました。今はそこで得た知見を、将棋分野に取り入れることにも注力しています。例えば、将棋のなかでもディープなテーマを掘り下げた『四間飛車至上主義 実戦で学ぶ考え方』では、ライトノベルのようなテイストの表紙にして、ほかに類のない将棋本になりました。これもライト文芸の編集を担当したことで、画力の高いイラストレーターの方々を知れたおかげですね」

「自分の視点」を定めれば、未来は見えてくる。

将棋を軸に、意欲的な編集面でのチャレンジを続ける島田。彼は“出版の未来”をどのようにとらえているのだろうか?

「これからは、より個人が発信の主体となり、その個人にファンがついていく時代です。『個人が伝えたいメッセージを最大化して表現すること』と、『それをファンにわかりやすく最適な手段で伝えること』を両立させるプロフェッショナル性が、出版社に求められてくると感じます」

最後に、島田個人としてのパーパスを聞いてみた。

「自分の可能性に気づき、未来が見えるようになるためには、なによりも『自分の視点』をしっかり定める必要があります。視点がブレていては、進むべき方向性もブレてしまいますから。そう考えたときに、情報があふれた現代社会は、『自分の視点』が構築しにくい、保持しにくい社会ともいえるかもしれません。だからこそ私は出版業を通して、良質なコンテンツを提供していきたいんです」

島田の言う「良質なコンテンツ」とは、受け手が自分の頭で考える余地を与える“豊かさ”も指しているのかもしれない。その豊かさに触れることで、受け手は自身を客観的に、長期的な視野で見つめることができる。そうすることではじめて、見えてくる未来があるはずだ。

「将棋もまた良質なコンテンツであり、藤井先生をはじめ多くの棋士が盤面で投げかける視点は、人間の飽くなき可能性を教えてくれます。人間とAIの共存のあり方などについても、将棋はひとつの視点を与えてくれると期待しています。私たちはそれを出版活動で言語化し、体系化していきたいですね」

株式会社マイナビ出版 編集第2部 部長

島田 修ニ(しまだ・しゅうじ)

2008年、株式会社毎日コミュニケーションズ 出版事業本部(現・マイナビ出版)入社。編集部で主に将棋書籍やゲームソフトの制作を担当。編集第2部の部長就任以降は、趣味、スポーツ、資格、就活、新書など幅広い分野の書籍に携わる。主な担当作に『天才棋士降臨・藤井聡太 炎の七番勝負と連勝記録の衝撃』など。

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