PURPOSE STORY

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アスリートとスポーツが持つ「真の価値」を伝え続ける。

株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部 マーケティング部 プロモーション課 鈴木 あぐり(すずき・あぐり)

「パーパス」ってなんだろう?

「ミッション」や「経営理念」と似ているけど、ちょっと違う。
企業と社会のつながりが欠かせない今、
ビジネスシーンで“存在意義”と訳されるこの言葉が、
多くの企業に求められている。

《一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。》

これは、マイナビが掲げたパーパスとともに歩く、
社員一人ひとりの物語。





「競技を続けたいが継続できる環境が見つからない」
「スポーツしかやってこなかったから、引退後に何をすればいいかわからない」

そんな風に、キャリアに対して不安を抱えるアスリートは多い。元サッカー選手であり、現在、アスリートキャリア事業部に所属する鈴木あぐりもまた、キャリアに悩んだ時期があったという。

「アスリート自身が中長期的な視点で自分の人生について考え、サービスや支援を活用する意味を知ることが大切」と、鈴木は言う。アスリートの将来の可能性を広げるため奮闘中の彼女に、現在に至るまでの道のりや自身のパーパスについて聞いた。

「なでしこジャパンになりたい」の一心で。

「競技の世界しか見てこなかったアスリートほど、キャリアへの不安が大きいんですよ」

近年話題にのぼることが多いアスリートの“セカンドキャリア”。10代からサッカー選手として世界で活躍した元アスリートとして、鈴木あぐりは、自分の身をもってこうした課題と向き合ってきた。

鈴木がサッカーを始めたのは小学4年生の時。最初は習い事感覚だったが、東日本大震災が起きた2011年、日本女子代表チーム「なでしこジャパン」がFIFA女子ワールドカップで初優勝したのを見て、「自分もこの舞台に立ちたい」と強い憧れを抱いたという。

「中学1年生の冬、地元のフットボールクラブ・山形FCのセレクションを受けに行きました。男子チームに中途入団したうえ、ポジションはゴールキーパー。認めてくれるチームメイトはほとんどいませんでしたが、片道2時間かけて練習に通い続けました。そんな環境でもがんばれたのも、なでしこジャパンの一員になりたかったからなんです」

高校は、女子サッカーの強豪である宮城県の常盤木学園高校に進学。めきめきと実力を伸ばし、2016年にはU-20日本女子代表候補に選出された。多くの大学から誘いを受けたものの、「学びたいことが決まらないうちに大学に行くよりも、社会に出て力をつけたい」と考え、卒業後はマイナビベガルタ仙台レディース(現・マイナビ仙台レディース)に入団。同時に、チームスポンサーであるマイナビに社員として入社することを決断した。

「当時のチームには20代後半から30代前半の選手が多く所属していました。いずれ自分がその年齢になったとき、サッカーを続けていられるだろうか? サッカーを続けた先にどんなキャリアがあるんだろう? 仕事と練習をこなす日々のなか、ふとそんな疑問が湧いてきたんです」

何かしらの答えがほしくて、鈴木はあるとき思いきって「なぜサッカーを続けるんですか」と、ひとりの先輩に尋ねてみたという。返ってきたのは「サッカーしかないからだよ」という言葉だった。

「その先輩のことをリスペクトしていたからこそ、心にズシンときました。この人のアスリートとしての輝きはサッカーがなくなったら失われてしまうのかな……と、寂しい気持ちになったんです」

引退は“あたらしい自分”と出会えるきっかけ。

「サッカー選手」兼「会社員」という“デュアルキャリア”を選んだからには、仕事にも全力投球したい。そう意気込んでマイナビに入社したものの、最初のうちは手が足りない部署のサポートがメインだったという。

「アスリートの務めは競技で結果を出すこと。そういう考え方もあると思いますが、私にとっては仕事も大事なフィールドでした。『頼まれごとは試されごと』ととらえて、求められていることに対してプラスアルファで返していくうちに、任せてもらえる業務が増えていったんです」

サッカーのプレースキルを仕事に直接生かすことはできない。しかし、競技を通して培ったマインドや状況判断、実行力は仕事でも役に立つ。

「仕事で得たことを競技に、競技で得たことを仕事に。自分のなかでうまく変換できるようになってから、デュアルキャリアが楽しくなりました」

2年目以降は、企業と直接やりとりができるマイナビ看護師を志望。看護師専任のリクルーティングアドバイザーとして、より専門的な業務に関わることになった。一方、アスリートとしては「FIFA U-20女子ワールドカップ フランス2018」の代表に選出。優勝を勝ち取り、世界一を経験した。しかし、このような華々しい活躍の裏で、鈴木はケガに悩まされていたという。

「練習中に首を痛めてしまい、治療やリハビリを繰り返していました。復帰を目指して、1年間たくさんのトレーナーやドクターの方に診ていただきましたが、思うように回復しなかったんです。シーズン終了時の状態を踏まえて、ピッチから離れることを決めました」

2019年、21歳での現役引退。「早すぎる」という声もあったが、鈴木の心は晴れやかだった。

「ケガのリハビリ期間に自分自身と向き合うなかで、サッカー中心で過ごしてきた世界の外にも目を向けることができました。引退するにあたっても、これからまだ知らない“あたらしい自分”に出会えると思うと、不安よりもワクワクする気持ちのほうが大きかったですね」

社会でもアスリートの「強み」を発揮してもらうために。

現役時代から、引退後は「スポーツ×キャリア」の仕事に就きたいと考えていたという鈴木。そんな彼女にとって、新天地となるアスリートキャリア事業部はまさにうってつけのフィールドだった。同事業部門は「アスリートのキャリア問題に関する拠り所になる」という想いから2018年12月に立ち上がっている。

「『サッカーしかない』という先輩の言葉がずっと頭の隅にありました。現役選手のデュアルキャリアを応援することはもちろん、引退した選手が『スポーツをやってきて良かった』と思える環境をつくるためにも、この部門で挑戦してみたいと思ったんです」

2020年2月、アスリートキャリア事業部に異動して最初に任されたのは、現役・引退アスリートに寄り添い最適なキャリアをサポートする、キャリアアドバイザーの仕事だった。鈴木は多くの選手と関わるなかで「競技外の人と関わる機会が少ないアスリートは、自分の社会的な立ち位置を俯瞰してとらえることに慣れていない」ということに気づいたという。

「競技で得た経験を、競技以外にもおき換えて考えることは、多くの現役アスリートにとって難しいことなんです。だからこそ、自分から競技を取ったら何が残るんだろう、自分に何ができるかわからない、と不安になってしまうんですよね」

アスリートキャリア事業部に所属して1年後、アスリートを採用する企業側のサポートを行うリクルーティングアドバイザーに就いてからは、「採用してもらうことがゴールではない」と考えるようになった。

「アスリートに自身の強みを聞くと、『礼儀』や『コミュニケーション力』といった答えが多く返ってきます。ところが、適性検査を受けてみると、例えば『チャレンジ精神』や『目標達成力』といった別の項目が上位に出てくる。こうした“ずれ”をアスリートに認識してもらい、より強みを発揮できる場所に導くことに、私たちが提供できる価値があると思っています」

スポーツと関わるすべての人に、キャリアを考えるきっかけを。

スポーツの世界では「競技に集中するほど強くなれる」という考え方が根強い。しかし、果たしてそれは本当だろうか?

「現役選手に伝えたいのは、『もっとアンテナを張って視野を広げたほうがいい』ということです。なぜなら、競技以外の世界に触れ、人と出会うことで、プレーヤーとして成長するためのヒントを得られるから。その視野の広さは、いずれつぎのキャリアを選ぶ際の武器にもなります」

そうした「視野を広げる機会」を提供するため、現在はプロモーターを務める鈴木がみずから立ち上げたのが、「Kurasu〜アスリートにとってのウェルビーイングな教室〜(以下、Kurasu)」だ。

「Kurasuは、現役アスリートや元アスリートの方々をゲストにお迎えし、現在に至るまでのキャリアや、ウェルビーイングな暮らしの話を深掘りするオンライントークイベントです。2023年6月にスタートして、これまでに3回開催してきました。参加したみなさんからは『トップアスリートの考え方に触れられて良かった』『キャリア選択の参考になった』という声もいただいています」

Kurasuの参加者は、最初の2回は現役・引退アスリートがほとんどだった。しかし、現役Bリーガー・会計士・経営者・二児の父という4つの顔を持つ岡田優介氏をゲストに迎えた第3回目は、アスリートを支える指導者や保護者など、ステークホルダーの参加が増えたという。

「アスリート自身がキャリアを考えることも大事ですが、それと同時にアスリートを取り巻く環境が変わっていかないと、ミスマッチが起きてしまいます。そのような理由からも、Kurasuはステークホルダーの方にこそ参加してほしいイベントだと思っています」

スポーツは「人生を豊かにする手段のひとつ」。

鈴木によれば、現役・引退アスリートを採用したいと考えている企業は多いという。では、企業側はアスリートに対して何を求めているのか。

「現役選手の場合は、雇用することで企業イメージアップやダイバーシティの推進につながります。また、競技経験で培ったマインドが、社内活性化を促すこともあるでしょう。そのように、アスリートがもたらすさまざまな影響力に期待している企業は多いですね」

スポーツは「人生を豊かにする手段のひとつ」であり、鈴木は引退してからそのことに気づいたと話す。

「毎日同じ時間に同じ練習を繰り返したり、体のケアや食事の管理を自分で考え実行したり。アスリートにとっては当たり前なことが、意外と世間では当たり前でなかったりします。そこから育まれる課題解決力や主体性、逆境を跳ね返すレジリエンス(回復力・弾性)の高さなど、スポーツを通して得ることができるものを世のなかにもっと伝えていきたいですね」

アスリートキャリア事業部は今、アスリートと社会をつなぐあたらしい「道」をつくっている最中だ。鈴木もその一員として、日々奮闘している。

「私のパーパスは、スポーツの魅力とアスリートの価値を高めていくことです。『スポーツは人を育てる』ということを、サービスとしても個人としても体現していきたいと思っています」

競技を引退しても人生は終わらない。人生に“セカンド”はなく、選手時代と引退後の自分は地続きだ。サッカーに夢中になり目標へ挑戦し続けた自分は確かに誇らしい。しかし、仕事に夢中になっている今の自分も「同じように誇らしい」と、鈴木は微笑む。

「スポーツを通して夢や希望を与えた選手たちには、引退後も自分らしく充実した人生を送り、輝き続けてほしいと思っています。そのためにどんなサポートができるか考え、伴走していきたいですね」

株式会社マイナビ アスリートキャリア事業部 マーケティング部 プロモーション課

鈴木 あぐり(すずき・あぐり)

1998年、山形県生まれ。仙台にある常盤木学園高校在学中に、U-20サッカー日本女子代表に選出。卒業後、2017年にマイナビべガルダ仙台レディース(現在はWE.リーグ所属の「マイナビ仙台レディース」)に入団。 FIFA U-20女子ワールドカップ2018ではU-20日本女子代表に選ばれ、優勝を経験した。ポジションはGK(ゴールキーパー)。2019年12月に引退後、総合情報サービスのマイナビのアスリートキャリア事業部に所属し、就労支援アドバイザーやマーケターを経て、現在はプロモーターとして活動中。

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